上新田学園5・6年生が、五感で感じる命の循環と牧場体験
2023年2月22日、宮崎県新富町にある上新田学園5・6年生35名が町内の松浦牧場へ。総合的な学習の一環で、牧場体験をするという校外学習です。
当日は地域交流牧場全国連絡会(交牧連)から数名の酪農家さんたちが、遠くは鳥取県から参加。関わる大人たちにとっても、多くの学びが生まれる場となりました。
学習前の注意点、牧場での約束
しっかり受け止め体験スタート
今日は、こゆ財団の教育イノベーション推進専門官・中山 隆が進行役を務めます。
「集まってくれた大人の人たちとたくさん話をしてくださいね」
と伝え、あいさつや笑顔など基本的かつ大事なポイントを一緒に確認。牧場の責任者・松浦千博さんからは、「牛にやさしく」「手を洗おう」など牧場での約束事が伝えられました。
青空の下、子どもたちは3班にわかれて、さっそく牧場体験スタート!
体験①子牛から学ぶ
子牛専用の牛舎は、松浦美知子さんが担当。
「牛乳を生産する牛は、白と黒の模様があるホルスタイン種です。この2頭は同じ牛さんから産まれた男女の双子ちゃんなんですよ」
実際に子牛にふれながら説明を聞いたら、牛のブラッシング体験。
専用のブラシを使い、子どもたちは子牛の背中をやさしく撫でながらブラッシングをします。
そもそもブラッシングは体の汚れを落とすために行いますが、血行促進の効果もあります。人との接触に慣れさせて信頼関係を築くためのコミュニケーションでもあるのだそう。
次は、哺乳体験。大きな哺乳器を使って、1人ずつ子牛のところへ。
ぐいぐいと吸い付く子牛にミルクを飲ませながら、
「力が強い!」
「なんかゴツゴツくる!」
などと、初めての体験に驚いた表情を見せています。
哺乳が終わったら、
「牛の口に手を入れてみませんか?」
と美知子さん。
えっ!と驚きながらも、興味津々の子が先頭を切って牛の口に手を伸ばします。
吸い付きながら舐めてくる、ぬるぬるとした不思議な触感に苦笑い。子牛は、奥歯は上下にありますが、前歯は下の歯しかないので噛まれても痛くないのだそうです。
「オスとメスはどうやって見分けるんですか?」
率直な質問が上がった時には、
「見てみますか?ちょうどオスとメスの双子ちゃんだから、わかりますよ」
と、しっぽを持ち上げて子牛のおしりを見せながら、
「人間と同じように、ついているのがオスです」
産まれた瞬間に、そうやって雄雌を確認するのだそうです。
「まつ毛がながーい!」
と一人の子どもが言うと、
「目の周りが黒いとまつ毛は黒、白い子はまつ毛も白いんですよ。だから左右でまつ毛の色が違う牛もいるから、見てみてね」
子どもたちの素朴な疑問に目を細めながら、一つひとつ丁寧に答えている美知子さんや交牧連の皆さんも楽しそうな表情でした。
体験②牛の乳しぼり体験
牛舎では朝の搾乳を終え、食事も済ませた牛たちがゆったりと過ごしています。たくさん食べて、糞尿もたっぷりでます。
こちらでは松浦さんが、牧場における命のめぐりを説明。
「牛の糞を集めて2ヶ月かけて発酵させたら、とても栄養たっぷりな肥料ができます。これを畑にまいた土で牧草を育て、牧草を干してそれを牛が食べます。そしてまた糞尿を集めて肥料にしています。
その牛が作る母乳を、私たち人間が牛たちからいただいたものが牛乳になります」
実際の完熟堆肥はサラサラしていて、臭いもほとんどありません。
1頭の牛のそばに行き、いよいよ乳しぼり体験をします。
一人ずつ、松浦さんと一緒に牛に触れます。
大きな牛の胴体をそっと撫でてから、しゃがんで乳しぼり。
やり方を教わった後、人差し指から順ににぎっていくと勢いよくお乳がでます。
「手を出してごらん」
そう言うと、松浦さんは子どもの手に牛の乳をしぼります。
「わ、あったかい」
牛の体温は、すなわち命。牛乳は、牛の命そのものであることが、感覚として子どもたちに伝わっているのではないでしょうか。
牛のお乳の温かさを感じた子どもたちは、交牧連の大人たちに質問してはメモをとっていました。
体験③牛乳飲みくらべ&バター作り体験
最後は、みんなで力を合わせて、牛乳からバターをつくります。
でも、どうやって牛乳からバターができるのでしょう?
松浦牧場では牧場オリジナルの牛乳を製造販売しています。ノンホモ低温殺菌牛乳といって、学校で毎日飲んでいる牛乳とはちょっと違うようで…。
多くの牛乳はホモジナイズといって、生乳中の不均一な脂肪分を均等に小さくする工程があるのですが、松浦牧場の牛乳はこれを行っていません。なので、大小不均一な脂肪分が牛乳中にあり、時間がたつと上に浮いてくるほど。だから、小さな容器に入れてシャカシャカと振り続けると、脂肪分がくっつき合ってバターになります。
学校で飲む牛乳はホモジナイズされているので、振ってもバターはできません。
もう一つ、殺菌法にもこだわりがあります。
生乳は殺菌しないと商品にできません。高温で殺菌すれば数秒または10数分で済むところ、松浦牧場は30分かけて65℃の低温殺菌を行います。それは、牛のお乳本来のおいしさを味わってほしいから。
飲み比べをしてみると…
「あ、全然味がちがう!」と目をまるくする子どもたち。
バター作りでは、みんなで協力しながら10分ほどシェイカーで振り続けます。だんだん塊が現れてきて、さらに振るとシャバシャバとした音になり…完成!
脂肪分が固まったバターと、脂肪が抜けた無脂肪乳に分かれていました。
できたてバターのおいしさと、自分たちでつくったからこその達成感を味わった子どもたち。笑顔があふれ、充実した時間を満喫したようです。
まとめの時間。
話を聞きたい大人に聞く&グループでシェア
体験学習の最後は、学びを深める振り返り。今日の進行役であるこゆ財団中山が、
「質問や話を聞きたい大人の人をつかまえてください。話を聞いたら、自分が今日一番印象に残ったことをグループ内で1つだけシェアしましょう」
と声をかけました。
大人と子どもたちの輪がいくつもできて、聞きたいこと&伝えたいことのキャッチボールは尽きない様子。たった3時間ですが、普段とは違う貴重な学びと経験が詰まっていたようです。
体験学習を終えて…
今回の牧場体験を通して、子どもたちだけでなく、この場に居合わせたあらゆる大人にとっても気づきや学びの多い時間となりました。
「私たち教師から教室で学ぶだけではなく、このような『体験』をすることで子どもたちの理解はぐっと深まります。地域との距離がこれだけ近いというのは、この学校の贅沢なところですね」
と、5年担任の中原先生も気づきの多い時間だったようです。
最後に、今回の体験学習の発案者である松浦千博さんに聞きました。
━今回はどんな目的で発案したのですか?
松浦さん「牧場体験を通じて、『酪農業』や『いのちの循環』について五感で感じてもらいたかったんです。また、学校給食で出る牛乳がどのように生産されて、自分たちの手元に届くのかも知ってほしいと思いました」
━開催を終え、どんなことを感じましたか?
松浦さん「参加した子どもたちからは、牛のこと、牛乳のこと、乳製品についてなど、たくさんの質問があってうれしかったです。普段自分たちが何気なく食べている物がどのように生産されているのか、興味を持つきっかけになったらいいなと思います」
地域で学ぶ、みんなで学び合う。
地域資源を生かしながら、新富町だからこそできる教育文化が、今まさに醸成されつつあるようです。