活動レポート

活動レポート

「農業課題を解決する方法ー楽しく稼げるスマート農業会議」と題して、北海道大学の野口 伸先生から収穫ロボットの研究や、宮崎、鹿児島でロボット農機の開発、実装実験になどに取り組む実例を聞くオンラインスマート農業会議を開催。今後スマート農業がさまざまな農業課題を解決して、持続可能なビジネスとなるヒントを引き出して行く、公開オンライン勉強会となりました。

■開催:2021年4月27日(火)20:00~21:30 オンライン開催
■テーマ:農業課題を解決する方法 ー楽しく稼げるスマート農業会議ー
■オンライン動画はコチラ
■ゲスト講師(敬称略):
野口 のぼる北海道大学大学院農学研究院
高橋慶彦(アグリスト株式会社 取締役 兼 最高執行責任者)
堀口大輔(鹿児島堀口製茶 代表取締役社長)
■モデレーター:高橋邦男(スマート農業推進協会 事務局/こゆ財団 執行理事)

今年度第1回目のゲストは農業用ロボットの専門家
北海道大学大学院の野口先生

宮崎県新富町は農業が盛んな町ですが、そこにも深刻な高齢化、担い手不足という問題があります。新富町の地域商社こゆ財団は、2019年に設立されたスマート農業推進協会の事務局を務めながら、農家、開発者と協働で持続可能な農業の将来を見据えた活動を始めています。
今回の勉強会のゲスト講師は、北海道大学大学院農学研究員の野口伸先生。農業のロボット化が専門で、スマート農業の研究に携わる第一人者です。

まず野口さんは、現在の農業の高齢化、労働力不足といった問題について、「解決に有効な技術がスマート農業である」と言います。ロボット化等による自動化は、常に経験と勘が必要な農業という現場において新規就農者のハードルを下げる役割も担います。

儲かる農業の確立と地域活性化を目指して
省力化とデータ収集が進むスマート農業

「スマート農業の効果は大きく3つあり、1つが自動化・ロボット化による省力化、2つめがデータに基づいた農業による経験と勘にあまり依存しない農業になっていくこと。最後に農業が基幹産業である地域において、個々の農家が儲けるだけでなく、地域自体の活性化につながっていくという広がりです」

そう話す野口先生の北海道大学では、遠隔監視・圃場間移動可能なロボット農機の開発を進めています。「遠隔監視のロボット農機とは、周辺の状況を認識して画像を転送する機能があります。フルHDのカメラを前方と後方に付け、さらに2Dレーザーで人や障害物を検知して、障害物の前で停止する仕組みです。このフルHD画像を5Gで転送するとわずか0.3秒のずれで監視することができます」。

また、ロボット開発は生産現場のデータの収集がカギになります。「生産から消費まで一連の情報をつなぐ『スマートフードチェーン』が、農業を核とした地域の活性化に役立つ技術だと思っています」と野口先生。「需要の予測」ができれば「出荷予測」ができます。地域が連携してロットで出荷することによってブランド化を進めるなど、北海道でさきがけている生産地もあります。

現場での実証を重ねて
収穫ロボットの開発に取り組む2例

収穫ロボットの開発や現場でロボットを導入しているケースから、アグリスト(宮崎県新富町)の高橋慶彦さん、堀口製茶(鹿児島県志布志市)の堀口大輔さんの例を紹介します。

高橋:キュウリとピーマンをはじめとした果菜類の収穫ロボットを作っています。大手農家さんから持続可能な農業を視野に、人手不足を解消するツールとして必要なのが収穫ロボットであるというニーズを受けて、全国からエンジニアを集めて取り組んでいます。

堀口:当社は約300ヘクタールの茶園があり、国のスマート農業実証などに参加しています。お茶の市況が悪くなっているため、海外への販路拡大に向けた認証関係や、労働力不足に対応するロボット摘採機の導入などを実証している段階です。

ロボット化・自動化で心の余裕が生まれた。
農業のあるべき姿は「ロボットと人の協働」

堀口:国の実証実験に参加して、実際に自動摘採機などを利用しながら動いてみることで多少とも忙しさから解消されて、心の余裕ができる。何を解決すればいいのか見えてくる。また問題を共有するコミュニティも作っていくことができることを実感しています。

野口:自動機械などを使うことで余裕が生まれるのがスマート農業の特長です。人と人が豊かな気持ちで余裕を持って仕事ができることは本当に大切です。「自動化して人がいなくなる」のではなく、人を助けるのがスマート農業です。実践者だからこその意見ですね。

高橋:100%収穫できるロボットは、できたとしてもコストが高くなりすぎる。ならば、何パーセント収穫できれば導入できるか、その点を農家さんと話をして、まずは20%で始めて現場で使える価格帯から目指そう。そして次は50%と目標を立てています。

野口:私は農業から人を排除するロボットではなく、協働して労働を軽減しながら生産の喜びを感じられるようなロボットが必要と考えます。開発コスト、農業のあるべき姿という点からも、そういった価値観が大切だと思います。

地域の農業や人と技術のマッチングこそ
スマート農業普及のカギ

野口:農業は地域産業です。地域の農業のこと、人のことを知っている組織がスマート農業の中間支援に入らないとうまくいきません。地域農業に必要な技術をきちんと選び、それを結びつけて相乗効果を発揮するようなシステムにしていく。そのためにもこゆ財団のような地域に根ざした組織の役割が重要です。

高橋:開発に当たるエンジニアが増えてくると、自分たちがどういう思いで開発を始めたのか、そのストーリーをどう伝えていくかが重要になり、人員が増えるにつれて危機感があります。そのため、毎月農家さんとエンジニアが未来の農業について膝を突き合わせて話をする時間を設けています。

堀口:現場には60数人の社員がいて、コミュニケーション不足を感じていました。スマート農業の実証実験の中で摘採や製造など、社員たちとラインで情報を飛ばしあったり、話をしながら、新しい技術に取り組んでいると、忙しい中でも非常に雰囲気よく仕事ができているなと思います。それが品質にも表れていると思います。

野口:スマート農業はまだこれからの技術ですが、地域で成功事例をひとつ作ることが今後普及していくためのカギだと思います。導入して儲かった、役に立ったという事例が出てくると加速度的に普及を促します。導入して空いた時間を使って他の作物を作るとか、拡大を進めるなど、生産体系の考えを変えていくというところまで必要でしょう。新しいビジネスモデルが必要不可欠で、できるだけ農家さんにそのメリットを感じてもらうことが大切です。

高橋邦男:ありがとうございました。

2021年度はこのようなスマート農業オンライン会議を毎月1回開催していきます。スマート農業への理解を深め、100年先も持続可能な農業の未来を描いていきましょう!

*スマート農業推進協会は会員募集中!

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