活動レポート

活動レポート

 スーパーなどで日々当たり前のように目にする、ずらっと陳列された牛乳。しかし、そこにはめったに並ぶことのない「ノンホモ低温殺菌牛乳」という牛乳があることをご存じでしょうか。宮崎県新富町にはその希少な牛乳を製造・販売している牧場があります。

 

 それが「松浦牧場」です。2023年2月、松浦牧場は自社ブランドのノンホモ低温殺菌牛乳「Matsuura Milk」や牧場そのものについてもっと深く知ってもらおうと、事業者向けの「ミルクサミット」というイベントを開催しました。今回はこのさまざまな“体験”が用意されたイベントの模様をレポートさせていただきます!

「ミルクサミット」開催の経緯

 ミルクサミット開催の発端となったのは、全国各地の起業家や事業の拡大・課題解決を考える人が新富町に一堂に会したイベント「L47ーLOCAL VENTURE STARTUP 2022ーKOYU SUMMIT」でした。松浦牧場の松浦千博さんは、このイベントの「お悩みピッチ」というプログラムに参加。お悩みピッチとは、“お悩み人”である経営者の課題を解決するため、さまざまな業界・年代・規模の経営者が“お助け隊”となって一緒に考え、アイデアを提示したり、アドバイスを送ったりするものです。(お悩みピッチの詳細はこちら

 

 千博さんはお悩み人として「製品の認知拡大と販路の開拓」について相談されました。「ノンホモ低温殺菌牛乳『Matsuura Milk』の認知を広げたい」「ファンを増やしたい」という千博さんのお悩みに対し、お助け隊がネクストアクションとして提案したのは、「全国のシェフを新富町に招待する“食材ツアー”の開催」でした。

 

 このアイデアを実現させるための第一歩として開催されたのが、今回の「ミルクサミット」なんです。初開催となる今回は、現在Matsuura Milkを料理や商品に使用している宮崎県内の事業者を招待。牧場見学やグループディスカッション、昼食会などが行われました。続いてはその様子をプログラム順にレポートしていきます。


1. 酪農家では西日本初!JGAP認証を取得した松浦牧場の概要


 まず始めに参加者全員の自己紹介が行われた後、千博さんの自己紹介と松浦牧場の概要の説明がありました。

 

 千博さんは高校卒業後、酪農の本場であるアメリカに6年間留学。そしてアメリカで学んだことを生かそうと、2010年に地元の新富町に戻ってきました。しかし、その年宮崎県では、牛や豚など偶数のひづめを持つ動物が感染する伝染病「口蹄疫(こうていえき)」が発生。29万頭を超える家畜の尊い命が奪われました。松浦牧場もやむなく牛全頭を殺処分。

 

 一から牧場経営を始めることとなった千博さん。「安定するまではなかなかやりたいことができなかった」という本音も語られました。口蹄疫という困難を乗り越えた松浦牧場。その後の沿革は次の通りです。

 

2017年 業務用「ノンホモ低温殺菌牛乳」の販売開始

2020年 牧場体験を開始(2022年は年間約300人を受け入れた)

2021年 自社ブランド「Matsuura Milk」の販売開始

2022年 JGAP認証を取得(酪農では西日本初)

     九州生乳販連の生乳品質共励会で3年連続「優秀賞」受賞

 

 松浦牧場が取得したJGAP認証の“JGAP”とは、「適切な農場管理の基準」のこと。JGAPには農場管理や環境保全、家畜衛生など、“持続可能な7つの取り組み”に関する100以上の基準が設けられています。松浦牧場はその基準をもとにした厳しい審査をクリアし、酪農家としては西日本で初めてJGAP認証を取得しました。

 

 また、松浦牧場が大切にしているのは“命の循環”です。牧場を通して命の循環を伝えようと、牧場体験などのさまざまな取り組みを行っています。ミルクサミットでも随所でそれを感じ取ることができました。


2. 「命が循環する牧場」を見学


 松浦牧場のことが少し理解できたところで牧場見学へ。まず案内されたのは子牛たちがいる牛舎でした。松浦牧場では乳牛のホルスタイン種に加え、和牛も育てています。和牛の子牛たちは生まれてから4ヶ月以内に肥育農家のもとへと巣立っていくとのこと。そして牛たちが耳につけている番号札は「耳標(じひょう)」と呼ばれ、人間で言えば“マイナンバー”のようなものだというお話も聞くことができました。


子牛にミルクを与える体験も。参加者は子牛の凄まじい吸引力に驚いていました。

 続いて食事中の牛たちの様子を見学。牛には4つの胃があることや、毎日およそ40kgのご飯を食べて100リットル以上の水を飲むこと、のんびりしているように見えるが、一度飲み込んだ食べ物を口に戻してよく噛み直す「反すう」という行動を繰り返しているので実は忙しい(一日約5万回噛む)ことなど、牛の生態についての説明がありました。

 さらに場所を移動して、今度は“堆肥”のお話。松浦牧場では牛たちのふんを2ヶ月かけて完熟堆肥にしています。さらにその完熟堆肥を使って牧草や自社ブランド米「まつうらみるく米」を栽培。完熟堆肥で育てた牧草が牛たちのえさとなり、ふんとなり、また堆肥となる。これも松浦牧場の“命の循環”の一つです。

 牧場見学の最後は乳しぼり体験。手のひらに搾りたてのミルクを出してもらった参加者からは「あったかい!」という声が聞かれました。


3. 一般の牛乳ではできない!バター作り体験


 牧場見学から戻ってくると、テーブルには美味しそうなバケットと白い液体の入ったシェイカーが。続いてはバター作り体験が行われました。シェイカーにはMatsuura Milkと純生クリームが入っており、それを参加者たちは順番にひたすらシェイク!疲れたら次の人へ、また次の人へとシェイカーはリレーのバトンのように渡されていきました。

 「明日筋肉痛になりそう」と言いながらもなんだか楽しそうな参加者たち。「もうそろそろかな?」「まだですね」という会話が数回繰り返された後、約10分でバターが完成しました。お待ちかねの試食タイムでは、できたてバターの美味しさに参加者一同が驚いている様子でした。

 

 実はバターはスーパーなどに並んでいる一般的な牛乳では作ることができません。その理由が分かるように、ここでノンホモ低温殺菌牛乳「Matsuura Milk」の解説をしておきます!

「Matsuura Milk」ってどんな牛乳?

 「Matsuura Milk」には、「ノンホモジナイズ・低温殺菌」という2つの大きな特徴があるのですが、違いを伝えるためにまずは一般的な牛乳について解説します。

 

 搾りたての生乳は脂肪分の大きさがまばらなため、通常は「ホモジナイズ」といって、脂肪分を機械で砕いて小さくし、均質化する処理が施されます。小さくなった脂肪分は集まりにくいため、一般的な牛乳ではバターを作ることができません。ホモジナイズには「品質を安定させる・消化吸収を良くする」といった効果があります。スーパーに並ぶ牛乳が年間を通してほぼ同じ味を保っているのは、この処理が行われているからです。

 

 また、現在日本で流通している牛乳の約95%は、120~150℃で1~3秒間加熱する「超高温殺菌」と呼ばれる方法で殺菌処理されています。卵や肉に熱を加えるとかたくなるように、生乳中のたんぱく質も高温で加熱することによって変性が起き、味が大きく変化すると言われています。

 

 一方、松浦牧場では「ノンホモジナイズ低温殺菌製法」を採用しています。ホモジナイズの処理を行わず、65℃という低温で30分以上の時間をかけて殺菌処理を行うというものです。松浦牧場がこの製法を採用しているのは、“搾りたての生乳に近い味”を消費者に届けるためです。

 

 ノンホモジナイズの牛乳を冷蔵庫などで静置しておくと、大きい脂肪分が浮かび上がって「クリームライン」という層ができます。バター作り体験の際、千博さんの奥様・ちひろさんは「クリームラインは最高に美味しい天然の生クリームなんですよ!私は子どもたちに内緒でこっそり食べてます」と教えてくださいました。松浦牧場ではそうした“自然の味わい”を楽しんでほしいと考えています。


4. バターを作る時にできる「無脂肪牛乳」の話


 バター作り体験の後は、千博さんから「無脂肪牛乳」についてのお話がありました。生乳から作られるバターの割合はわずか4%ほどと非常に少なく、残りは脂肪分が取り除かれた無脂肪牛乳となります。無脂肪牛乳は大手メーカーでは乳飲料などに使用されていますが、破棄されていることも多いのが現状です。千博さんのお話の中の「無脂肪牛乳の使い道があればバターも生クリームも作れる」「もはやバターの方が副産物では?」という言葉が印象的でした。


5. 無脂肪牛乳の活用方法について考えるグループディスカッション


 続いて参加者たちは3グループに分かれ、無脂肪牛乳を試飲しながら活用方法についてアイデアを出し合いました。たんぱく質の割合が高い・無脂肪という特徴があることから、健康を意識している人・ダイエットしたい人に向けたスイーツやドリンク、料理に活用するという意見が多く上げられていました。


6. Matsuura Milkや無脂肪牛乳を使った料理を味わう昼食会


 ミルクサミットのプログラムの最後は、全員でテーブルを囲む昼食会でした。ちひろさんお手製のミルクスープやサラダ、まつうらみるく米、南国プリン都農研究所の唐揚げなどがテーブルに並びました。

 

 都農町にある南国プリン都農研究所では、“食”を作ることにより発生する食品ロスなどの課題を解決するための研究を行っています。そこで生まれた商品の一つが、無脂肪乳を使った唐揚げです。無脂肪乳に昆布やかつお節を入れてだしをとり、そのだしに鶏肉を真空状態で一晩漬け込んでいるとのこと。牛乳・無脂肪乳が持つ、肉の臭みをとる・肉の繊維を分解して柔らかくするという効果を活用した商品として、参加者に紹介されていました。

 

 また、昼食会では「いいものを作れば売れると思っている人が未だにいるけれど、今は美味しいもの・いいものを作るのは当たり前。それをどう差別化するのか、販路をどう確保するのか、誰に売るのかといったことを考えてから商品を作らなければ売れない」といった意見も聞かれ、グループディスカッションに引き続き、活発な意見交換が行われていました。

 今回は初開催のミルクサミットの様子をレポートさせていただきました。初回は県内事業者のみの招待でしたが、「新富町に全国のシェフたちがやってくる日もそう遠くないのでは?」と思わず期待してしまう内容の濃いイベントでした。松浦牧場では今後もミルクサミットを継続して行っていく予定です。詳細はInstagramやホームページをチェックしてみてください!

 

松浦牧場

Instagram:https://www.instagram.com/matsuuradailymilk/

ホームページ:https://miyazaki.matsuuramilk.com/

 

取材・撮影・執筆:河野 史