企業研修は次の段階へ。宮崎・新富町で生まれた研修「ひなたコンパス」とは
宮崎県新富町で生まれた企業研修プログラム「ひなたコンパス」。
都市部企業の中堅社員を対象に、地域での体験や対話を通じて自分の現在地を見つめ直すフィールド型研修です。この研修の企画段階から伴走してきたお二人に、企業研修の変化と「ひなたコンパス」の可能性について伺いました。
~ひなたコンパスとは?~
ひなたコンパスとは、地方の魅力と都市部のビジネスニーズを結びつけ、中堅社員の内面的成長を促すフィールド型研修プログラム。実施するのは、新富町を拠点に活動する女子サッカークラブ「ヴィアマテラス宮崎」を運営するNPO法人Connecting Sports宮崎と、新富町の地域商社「こゆ財団」の協業チームです。

小坂幸弘さん
1977年東京都生まれ、千葉県育ち。 2000年4月より株式会社Plan・Do・See(プラン・ドゥ・シー)でレストランやホテル事業などを幅広く経験した後、組織開発育成コーチ・組織変革コンサルタントとして全国を飛び回る。2022年より山梨県北杜市で株式会社TIESONALを創業

玉手伸幸さん
1982年京都府出身。合同会社町子屋 代表社員。2021年〜2025年3月、宮崎県新富町で女子サッカークラブ「ヴィアマテラス宮崎」の運営に携わる。人材育成やプロジェクト運営サポートなど幅広い業務で多様な地域・企業とつながりを持つ。
企業研修は「スキル教育」から「人材開発」へ
ーーお二人は2025年4月より「ひなたコンパス」の企画構想段階から伴走支援されました。これまでの経験として、どのような形で企業の研修事業に関わってこられたのでしょうか?

小坂幸弘さん(以下、小坂):前職の株式会社Plan・Do・Seeでは、社内の採用・人事、組織マネジメントを担当した後、企業から依頼を受けて研修の講師を努めたり、組織開発のコンサルタント業を手がけてきました。
玉手伸幸さん(以下、玉手):私は小坂さんの研修事業をサポートすることが多かったです。研修はワークショップ形式で行うものから、企業の課題感を引き出し、共有しながらレクチャーを行う講座形式のものもあります。
ーーそもそも企業の研修というものは、どのような背景で行われるようになったのでしょうか?
小坂:高度経済成長期から2000年頃までは、「作れば売れる」時代。明確なゴールに向けたOJTによるスキルアップ研修が主流でした。しかし2000年以降、特にリーマンショック(2008年)後は「個の時代」が到来し、スキルアップなど教育的な研修から、組織開発や個人の資質を伸ばす研修にシフトしています。最近では、スキルアップ研修よりも組織開発や人材開発の文脈の研修が増えている印象です。

ーー組織開発・人材開発は、スキルアップ研修よりも成果につなげることが難しそうですね。
小坂:そうですね。従来のスキルアップ研修のように「5から10へレベルアップ」が目標であればさほど難しくありませんが、個人や組織開発の研修となると目的の抽象度が上がり、成果に直結させることが難しくなります。
例えば「社員のエンゲージメントを上げる」ことを目的とすると、上司や同僚との関係性、自社の商品との関係性の改善が求められるでしょう。そうなると、もはや会社の組織文化の醸成といった文脈になり、それを研修で実現しようとすると非常に難易度が高くなるんです。
さらに最近では、社員の働きがいだけでなく、“生きがい”までも会社に求められるようになってきました。そうした背景もあり、企業研修に求められる役割も広がっています。企業は本当に大変だと思います。
お金を支払って外部研修を行うのですから、成果につなげたいのは当然です。そのためには、「なぜやるのか?」を主催する企業担当者、受講者、講師の三者間で合意がなされていることが大切だと思います。
ひなたコンパスは中堅社員層が「自分を捉え直す機会」
ーーそんななか、新富町で研修事業「ひなたコンパス」を立ち上げました。どんな思いが込められているのでしょうか?
玉手:企業研修は将来のトップ・リーダー人材に当てた研修が多いなか、ひなたコンパスは都市部のミドル(中堅社員)層をターゲットに考えています。「人生の正午期」と言われる40歳前後、自分たちもまさにその年代なのでわかるのですが、一見順調に見える社会人でも心のモヤモヤを抱えている人って多いんです。そういう人たちに転職や移住を促すのではなく、今の仕事に価値を見出し、現在の立場でモチベーションを上げて頑張っていけるような内容を提供したいと考えました。
「日本のひなた」と称される気候の良い宮崎で、自分の“現在地”を知る。自分を違うアプローチで捉え直すことにより、プラス感情を引き起こすことがポイントです。

ーーなるほど。リーダー育成ではなくミドル層に研修をした場合、企業にはどのようなメリットが生まれますか?
小坂:大手企業では200〜300人の新卒採用者のうち、最終的にリーダーや管理職になる人はごく一部に限られます。35〜40歳頃から、子育てなどプライベートでの環境や役割の変化で働き方の見直しが始まり、仕事8割からプライベート重視へとキャリアチェンジする人が多くいます。今後は、すでに一定のスキルがあって教育コストがかからないこの層をうまく活用することが、企業の課題解決につながると考えています。
ーーそのような研修のフィールドとなる、新富町の魅力とは何でしょうか?
小坂:新富町の魅力・価値は、行政と民間の近さ、そして住民の寛容さだと思っています。地域おこし協力隊制度を活用したチーム・ヴィアマテラス宮崎さんの成功はまさにその象徴です。行政と民間が手をとり立ち上がったチームや選手を、地域が温かく受け入れ、ファンとして応援している。本当に素敵な光景で、他の地域が簡単に真似できることではありません。

また、こゆ財団のような民間組織が地域の多様なプレイヤーを紹介してくれます。都市部の人たちは日常の社内とは違った「弱い関係」で地域の人とつながりが生まれて、とてもいい影響を受けているんですよ。
ーー「弱い関係」でいい影響が生まれるとは?
小坂:直属の上司や部下のような「強い関係」だけでなく、他部署の人や地域の人などの「弱い関係」が、人の視野を広げることが研究でも分かっています。都市部の社員が新富の人たちとゆるくつながることで、仕事の外に安心できる関係性が生まれるのではないでしょうか。
新富の人たちには、そんな器の広さや大らかさ、寛容さを感じます。
新富の「当たり前」を企業研修の資産に

ーーひなたコンパスの、今後の展望について聞かせてください。
玉手:非常に良いコンセプトができていると思います。一般的な商品との差別化ポイントになる一方で、新規事業としての産みの苦しみもありますが、それを乗り越えることで相手企業にとっても我々にとっても充実度の高いプロジェクトになると信じています。
小坂:新富町が今まで当たり前にやってきたことを、外部の人たちに価値として届ける方法を考え続けることが重要です。企業の課題をしっかりと聞いた上で、それに合う新富の良さをぶつける。新富の当たり前を資産として扱い、それをお金に変えることができれば、10社20社と多くの企業に関わってもらえると思います。
地方の温かい人間関係と都市部のビジネスニーズを結びつけ、特に中堅層社員の内面的成長を促進する「ひなたコンパス」。今後の企業研修のあり方に新たな可能性を示しているのではないでしょうか。企業の人材育成が地方の課題解決にもつながるような関係性の構築も目指しながら、新富町ではさらに実践を重ねていきます。
地域との共創やミドル層の人材開発に興味関心のある企業のご担当者さま、ぜひ一度新富町の魅力を感じてみませんか。

