2019年6月9日、新富町総合交流センターきらりで、「AI時代に必要な問題発見・解決能力の育て方~学び×遊び×働く」が開催されました。
このイベントは、宮崎県新富町で地域づくりを行なっている「こゆ財団」が、人材育成事業の一環として開催したものです。会場には教育関係者ら30名を超える参加者が集まりました。
講師には、スタディサプリ教育AI研究所所長で国立大学法人 東京学芸大学大学院准教授である小宮山利恵子さんが登壇。また、新富町の小嶋崇嗣町長や、新富町議会の小山早苗議員も加わり、参加者との質疑応答も行われました。
学びの質は体験の有無で変わる
小宮山さんの講話では、はじめに教育に携わるようになった経緯や、そこでの気づきについて紹介されました。
早稲田大学大学院を修了後、国会議員秘書として仕事をしていた小宮山さんは、あまり例のなかった民間企業へ転職し、さらにゲーム関連企業へ。いずれの職にも「教育」というワードが共通していたという小宮山さんは、現在リクルートに在籍しながら、ANAと連携した「旅×学び」をテーマとするプロジェクトにも携わっています。
そこで感じているのは、旅が学びによい影響をもたらすということだと、小宮山さんは話します。
「今はインターネットである程度のことはわかりますが、学びの質は実際に体験しているかどうか、五感をもって感じているかどうかで変わると思います。その意味で、五感がフルに刺激される旅は、自分の中の偏見を無くし過去の情報を更新できる力があると考えています」(小宮山さん)
*参加者に世界の最新事例などを伝える小宮山さん
生まれる余白を何に置き換えるか
続いて小宮山さんは、世界の最新事情を伝えてくれました。
「AIがどんどん浸透してきて、AIに取って替わられる仕事が増える、という話がよく聞かれるようになっていますよね。ただ、教育はこれからも人が担うべき仕事が多くあります。例えば、テストの問題はAIが作るので、先生は子どもたちと向き合う時間をつくることができます。これから主流になっていく問題解決型学習(PBL)は、まさに人が中心。教育の担い手は今後も人が重要です」(小宮山さん)
メディアなどでもAIをはじめとするテクノロジーの浸透を不安視する声がよく取り上げられていますが、小宮山さんが紹介された海外の最新事例を聞く限り、AIはあくまでも人を補完する手段であり、人が人としてよりよく学び、教えることによい影響をもたらすものだと感じさせてくれます。
例えば、自動運転。すべての自動車がAIによって自動運転できるようになれば、移動中に本や動画で学ぶことができます。仮想現実(VR)を使えば、ピラミッドの中を探索しながら歴史を学ぶこともできます。
アメリカでは実際に始まっているという、テクノロジーを使った新しい学び。日本にも間違いなくやってくるといえるのではないでしょうか。
「テクノロジーは、新しい可能性を開く鍵です。自分の仕事を取られるというのではなく、それによって生まれる余白を何に置き換えるかという発想が大切だと思います」(小宮山さん)
*夢茶房の茶畑の風景
五感を使って学ぶことが大切
小宮山さんはこれからの時代に必要な学びについて、大事なのは主体性だと話します。
「世界最先端の電子国家と言われるエストニアは、テクノロジーを活用した教育でも注目を集めています。学校のすべての教科にテクノロジーが導入されているんですよ。しかしながら、それはあくまでも手段。実は工作や手芸、体を動かすといった、自らが主体的に取り組むこと、五感をフルに活用することに重きが置かれています」
日本の学校にも、五感を使った学び、ものづくりを学ぶ場がもっとあっていいんじゃないか。小宮山さんの投げかけに、参加者の方々の多くが何度もうなずいていました。
新富町には何度も来られている小宮山さん。「新富町には、五感を使って学べる場がたくさんあります! 実際に私も見せていただきましたが、東京では望めないような環境がこれだけある町もなかなかないのでは」と、そのポテンシャルの高さを強調します。
小宮山さんが代表例としてあげたのは、お茶でした。小宮山さんはANAと連携したプログラムで2019年4月に新富町の茶園「夢茶房」を訪問していて、学び場としての可能性を感じらたそうです。
*2019年4月に新富町で行われたプログラムの様子
「すぐ近くにお茶園があり、お茶づくりを学べる場がある。町の方からすると当たり前のように思われるかもしれませんが、東京に住む人が同じ体験をしようと思ったら、遠いところまで足を運ばなければいけません。それに、新富町にはお茶だけでなく、野菜も果物も海も古墳もすぐ近くにあります。五感をフル活用して、総合的に学べる場がたくさんあるんですよね」(小宮山さん)
五感を使えば、なぜ?なに?という疑問が続々と湧いてくるもの。学びを深めるのに、そうした疑問は最高のきっかけになると、小宮山さんは語りかけます。
好きなことを追求しよう
「これからの時代に必要なのはどんな人材?」という質問に対し、小宮山さんは「好きなことを追求していける人材」と回答。基礎的な学力を養う義務教育は今後も大事だとした上で、その上に積み上げる教育は得意なものを伸ばすことが重要になると話しました。
「例えば、美術が得意で、数学が苦手な人がいたとします。これまでの教育のあり方だと苦手な数学を克服してどれも平均点以上を目指していましたが、これからは得意なことを伸ばす。苦手なことは、得意な仲間を連れてくるという発想が必要だと思います」(小宮山さん)
小宮山さんによると、すでに東京都内では定期テストや宿題を廃止している学校も出てきているとのこと。海外のことだった先進事例も、今後は日本じゅうに急速に広まることが予想されます。
「教育とは本来、新しい学びを得られる場であるはずですが、今の学校は、設備や教材などが古いままというケースがまだまだ多いのが現状です。社会全体はもちろん、そこで求められる人材像も大きく変わってきている今だからこそ、私たちは新しい学びの機会をつくり、好きを追求していく人材を育成する必要があると感じています」(小宮山さん)
五感を使って学び、好きを追求していく人材。「AI時代に必要な問題発見・解決能力」を備えた人材とは、まさにそうした人材だといえるのではないでしょうか。
小宮山さんの語る「好きを追求していく人材」について、より詳しくまとめた書籍が発売されています。興味をお持ちの方はぜひご一読ください。