農業や地方から、ビジネスで課題を解決していくという動きがさらに高まっています。アグリストとこゆ財団の活動について伺っていきたいと思います。
質問:まず入り口の部分について教えていただきたいと思います。斎藤さんが新富町に行かれてこゆ財団に入られたきっかけは何だったのですか?
僕が事業をやる上でも地方の仕事をやる上でも、一番大事にしていることは何をやるかよりも誰とやるかということです。
当時、こゆ財団が出来て経営者を探していたときに共通の友人から声がかかったことがきっかけです。
一度はお断りして一緒に適任の方を探したのですが、見つからずどうしようと思っていたときに、一緒に活動をしていく中で当時の町長や役場の方などとゴールを共有出来たことに気づきました。
地域の課題を本当に解決しなければいけないし、このメンバーであれば自分の人生でのパーパスを共有できるのではないかと考えたことがスタートのきっかけです。
質問:ビジネスで課題解決していくニーズが、町側に最初からあったのですか?
観光協会があったのですが、なかなかお金を生み出せておらず、とにかく稼がなくてはいけないということはありました。
その危機感もあり、前へと突き動かしていたとも思います。
要は今の悩みとして、新規事業が生まれにくくなっている状況があります。最初に持っていたベンチャー精神を失わずに新規事業を生み出していかないと、逆に衰退していくのではないかという心配は今抱えています。
行政ができないことを徹底的にやる
質問: こゆ財団が自治体サイドだけでは機能やスピード感を担保できないところをカバーしていくという位置付けは明確にあるのですか?
僕らが徹底していたことは行政ができないことをやると決めてやっていました。
行政には行政のいい部分もあります。例えば災害が起きたときに公務員が勝手な行動をしないですし、そこは行政として非常に守備力が高い点だと思っています。
やはりいい守備があると攻撃しやすいので、そこは分けて考えるべきかなと思いますね。
地域は巻き込まない
質問:どうやって地域に入っていったのですか?
よく地域をどうやって巻き込むのかと聞かれますが、巻き込まないとよく言っています。
地域でお付き合いなどで呼ばれるものは一切行ったことがないですね。
それよりもビジネスで結果を出す方が重要だと思っていて、ライチが全国区になったりふるさと納税で収益が上がってきたりということを重視してやってきました。
それに、新しいことをやるときは賛否両論で、無理と言われてそれを快感に感じているくらいでないと事業は進まないと思います。
今は空飛ぶ収穫ロボットを作っていますが、こんなものできるのかと言われていますね。
でも、できるかできないかではなく、やるかやらないかだと思っています。
根幹は困った人を助けたいパーパスを実現
パーパスを実現していくにあたって地域の課題をうまく繋げようとしていると思うのですが、どういうスタンスで向き合っていらっしゃいますか?
よく1万7千人の町から上場企業などと大きいことを言うのですが、根っこにあるものはとてもシンプルで、友達が困っているから助けようという感じです。
僕は農家でもないですし、ロボットも作ったことがないですけれども、農家さんと4年間関わってきて「絶対にロボットがいる」って声を聞き続けてきたのですよ。
地域の課題やビジネスは結論そういうことだと思うのですよね。だから常に顧客と向き合うということが一番のポイントだと思います。
質問:その過程として行政との取り組みはどう進めていらっしゃいますか?
会社の組織のフェーズによって違うのですけれども、最初は勢いで行くことですね。
最近はこゆ財団のメンバーも増えて頑張ってくれているので、色々なところで評価を受けています。
そのフェーズになると勢い任せでは信頼を壊してしまうかもしれませんし、調整役に変わってくると思いますね。
質問:我民間と公共の違いをマネジメントする必要を感じますか?
一番重要だと思いますね。
ポイントは通訳で、正しく伝えられるかどうかです。正直今そこが全然うまくいっていなくて、町長や役場の幹部の方と直接話すようにしていますね。
そうすると、上の方で何かやっているけれども下がついてこないという感じになるので、悩みが多いところですね。
質問:今町側としてこゆ財団に求めている役割は当初と変わってきているのですか?
変わってきています。
ここまで組織など気にせず突っ走ってきたのですが、この一年くらいで組織を整えてきています。
街づくり事業部という既存の部と、新規事業開発部という二軸を作って、新しいことを作る部とこれまでのものを守る部を分けてやっています。
そうしないと無理だというところまで来ましたね。
新規事業開発部は僕の直轄でやっていて、地方の田舎町の方が給料が上がるようにしたいのですよ。
ここから、また第二創業として新たなものを生み出そうとしています
質問: 地方で事業を成功させるためには、資金調達やプロモーションをする際に意識していることはありますか?
意識していることは、東京ではできないことかということです。
大半のことができてしまうので、僕が投資家を口説くときは「農場の隣に開発ラボがある、世界で一番近いです。Appleでもできません」と言います。これは腹落ち感があると言われましたね。
質問:近隣の市町村とブレイクスルーはできませんか?
別の町でピーマンの農場も立てようと思っていますが、どこの地域がというよりも思いを持っている人同士が社会的課題を解決するためにインパクトやイノベーションを起こしていくことが何よりも必要です。
そもそも新富町云々という考えはあまりなくて、どうやったら日本が国際社会の中で地球規模の課題解決をしていけるのかということを真剣に考えています。
質問:現在様々な自治体が地域産品のブランド化に取り組んでいますが、うまくいくかどうかのポイントは何でしょうか。
どんなに頑張って美しいパッケージをデザインしたとしても、最後の掛け算で生産者さんが本気にならないとゼロと同じです。
うまくいくかどうかは、最後はその人の持っている情熱や僕は執念だと思いますね。
いろいろな事業も同じで、担い手が覚悟を持ってやる必要があります。
打ち上げたのですが、担い手の覚悟が見えないまま打ち上げたものはほぼ失敗しているという経験が我々もありますね。
起業家精神を醸成することがすごく重要。
質問:人材を発掘する方法は?
これからの時代もっとも大事なことは起業家育成で、起業家精神を醸成することがすごく重要。
今すべきことは、間違いなくスタートアップを育てることだと思います。
福岡は支店経済で自立的な経済という意味は自由度がないので、スタートアップで福岡起点、福岡発のビジネスを作っていきたいというところがあります。
スタートアップは地域の産業構造がすごく反映されている印象があるので、地域の色を持ちながら旗を一つ立てることで、町としての方向性や思いを持っている人たちの呼び込みがしやすくなるかもしれないですよね。
質問:関わった農家さんの所得上昇や市民の若年層の人口動態の影響など、ポジティブな影響はありましたか?
ふるさと納税の伸びもあり、地元の野菜を出しているので確実に所得は上がっていると思います。
特に若年層は地域おこし協力隊が多く、活躍してくれています。
ただ人口の増減で考えるより、地域の中で経済活動が活発化して人々がウェルビーイングの文脈で豊かになっているかという指標で物事を考えないと本質的な地域づくりはなかなか実現しないのではないかということが僕の考えですね。
質問:アグリストにおける、スマート農業推進上の課題は何ですか?
スマート農業は手段でしかないのですが、スマート農業を使うことが目的になっている人が多くてそこが一番の問題だなと思いますね。
収穫をやる人が増えればロボットはいらないですが、ただ今いないからロボット開発を行いました。
顧客の課題を解決が本来の目的であることを忘れてはいけません。
一番の課題は認知度です。
質問:地域で展開を考えていく上で、特に課題感として感じている部分はありますか?
一番の課題は認知度です。
みんな不安なのですよね、みんながやったらやるというスタンスなので、やはり認知を広めるということは重要なポイント。
地方でプロダクトやソリューションを起こして展開するとき、誰が買ったのかなどしばらく様子を見てからということはありますよね。
スタートアップは、認知が広まるかキャッシュがなくなるかの勝負ですね。待っていられないので僕ら自身も農家になって、農業法人も作りました。どんどんロボットを使う農業をやっていこうと思っていますね。
質問:活動するためには住民の理解が必要な気がしますが、結果を出せば概ね理解は得られると考えていますか?最初から住民全体の理解を意識していますか?
住民理解は基本的に尊敬し、多様性を認めて包括的に支え合っていく社会になっていくことが重要で、まさにダイバーシティ&インクルージョンです。
町民理解、住民理解というよりももうちょっと上位概念、町の100年後がどうなったらいいかという上位概念で語って行くといいのではないかと思います。
質問:今の状況を変えていこうという農家の方、そういった思いのある方も増えているのでしょうか?
嬉しいことにこゆ財団の人数も増えていますし、アグリストもこの半年くらいで20人くらい採用しました。
今思うことは移住促進とよく言っていましたが、ほとんどの人が求めていることがやりがいや成長できる環境、正当なお金としての評価で、この3つがすごく重要です。
やはり企業やベンチャー、スタートアップを作ってそこで雇用を生み出すことが最も重要なことでありますし、そういう人たちを見て新しい人たちが移住してくるのではないかと思っています。
外部環境や町の良さをPRしても、自分のライフスタイル、ワークスタイルで何をできるのかがわからないということが結構多いので、可視化する必要があると思っています。
受け皿の問題はずっとありますから、こゆ財団にしてもアグリストにしても受け皿になっていくということですよね。
こゆ財団で言うとインフラの受け皿になっていき、アグリストで言うと攻め皿になっていく感じですかね。今の観点でいくとやはり行政がやるべきことと民間がやるべきことをちゃんと分けて考えてその上でリスペクトし合うことがすごく重要ですね。
人の思いや熱意は重要ですが、チーム内でその部分の共感が難しいと思ったことはありますか?その場合はどのように対応されたか知りたいです。
難しいことではありますが、凹凸で考えるようにしていますね。
凹凸のデコボコを認めあってはめていくことで、組織は多様生かつ強い組織になっていくという発想がすごく重要かなと思いますね。
質問: なぜ新富町を選ばれのですか?
結局は人ですね。
事業が大きくなると自分一人の力はたかが知れていて、役割にしかなりません。だからこそ誰と組むかということが本当に重要で、そうでないと課題に対して適切なアプローチができないということがありますね。
質問: 地域以外の顧客を得られるケースと得られないケースの違いは何でしょうか?
僕はあまりその点については考えていないですね。
結果的にそうなったというだけで、大事なことは誰が顧客なのかということだと思います。
質問:農業に最近若い従事者が増えていますが、技術継承における課題があるのか、またそれはDXで解決できるのでしょうか?
若い人はどんどん入ってきていますし、DXで課題解決もできると思います。
自動収穫ロボットもロボットがサイズや収穫時期を判断するのですが、それは素人の農家ではできないじゃないですか。熟練の農家さんの技術があるからこそ、できるのだと思っています。
質問:斎藤さんの影響で農業の面白さを実感しましたし、農業をやりたい方も増えたのではないかと思うのですが、実際にどうですか?
新富町も増えていますが、僕の成果ではなく国全体、自治体の皆さんの頑張りだと思います。
新規就農したい方も増えていますし、農業ビジネスとして考えるようになった若者がすごく増えていますね。
質問:農業従事者の平均年齢が欧米と比べても高いですが、高齢での従事者についてどう考えていらっしゃいますか?
大事なことは農家さんが67歳なのか50歳なのかではなく、本気でやる気なのかどうかということです。
新富町でもご高齢の方はたくさんいらっしゃいますけれども、本気でやる気がある人もいますからね。
今日すごくいいお話をさせてもらったなと思うことは、本当にダイバーシティ&インクルージョンの時代だなと思っていて、年齢や地域、性別は全然関係なくなってくると思っています。