2021年7月20日、宮崎県小林市立須木中学校から1・2年生9人が、同じく宮崎県内の新富町を訪れました。学校では学べないことを、生徒たちはもちろん先生も一緒に学ぶことを目的にした、新富町での校外学習です。
昨年度から修学旅行の受け入れを実施している、私たちこゆ財団から、観光担当の鈴木・岡田と教育イノベーション推進専門官・中山が、先生方と打ち合わせを重ねながら設計から運営までお任せいただきました。

校外学習の会場となった『民宿 初音』
海に面した富田浜周辺で校外学習
バスで到着したのは、富田浜入江の前に建つ『初音』。まずは徒歩で行けるほど近い富田浜へ行き、みんなで海を楽しみました。山間部で暮らし、海を見る機会は少ない須木中の生徒たち。
「大きい!」「波がすごい」「…地味に怖い」
風が強く、荒れ模様の海を目の前にして少し怖がりながらも、宮崎県の天然記念物であるアカウミガメが上陸・産卵する時期と聞き、
「ウミガメの卵あるかな?」
と興味津々に砂浜を歩き回っていました。
午前:流木アートを作ろう
海を体感した後、初音1階のカフェレストランスペースで、流木や海の漂着物を使ったアート制作体験をします。都城市で流木アートの販売や教室を行う『MOGURAコーサクシツ』の村崎 実さんを講師にお迎えしました。
・「流木アート 海岸の漂着物が作品に」(UMKテレビ宮崎・2019年11月27日放送)
地域おこし協力隊でこゆ財団のアート担当・甲斐隆児さんも特別参加。自身も大好きだという海について話します。
「海は場所によって全然違うし、時間によっても違う姿が見れます。新富町では、観音山から見る富田浜がぼくは好きです」

生徒たちに話をする甲斐隆児さん(手前)と、こゆ財団の中山(奥)。(撮影:中山雄太)
アートと自然は繋がりが深いもの。流木やシーグラスなど海から拾ってきた素材を使い、直前に見てきた海の様子も思い浮かべながら、作りたいものを自由に作って、表現することを試みます。
こゆ財団・中山も、
「自分のことを表現するのに正解なんてありません。今日は感じたことを自由に発言してくださいね」
と生徒さんたちに声をかけ、講師の村崎さんにバトンタッチしました。
自由に選び、自由に表現
思いが生まれ制作に没頭

午前中の講師、「MOGURAコーサクシツ」の村崎 実さん。(撮影:中山雄太)
まずは村崎さんが、見本を手に取り説明します。今日は次の3つから、好きなものを選び作ります。
・フォトフレーム
・蚊取り線香スタンド
・一輪挿し
各自決めたら、今度は素材や装飾、形を自由に選びます。刃物を使う際は細心の注意を払うことだけを約束してスタートしました。
「富田浜はアカウミガメ保護のボランティア活動により、キレイにされていますよね。でもこれら(村崎さんが持参した流木や漂流物)は全て僕が宮崎の海から拾ったもの。プラスチックのゴミもたくさんあるんですよ」(村崎さん)
人間の生活が自然や生き物に負担をかけている現実も同時に感じながら、一つひとつ手に取って選びます。
プレゼントする誰かのこと、また自分が使うシーンをイメージしながら、制作に取り掛かりました。

制作風景(撮影:中山雄太)
時間が経つほどに制作に没頭していく須木中のみなさん。
素材も色合いも、それぞれ違った美しさや味わいが生まれ、どれもが世界に一つの作品になっていきます。
作品完成、そして感謝の気持ちに包まれて…
お母さんが好きな水色を使ってフォトフレームを作った生徒さん、自身のスマホを立てるスタンドを制作した先生も。
自分の作品をみんなに発表した後、代表の生徒さんから村崎さんへお礼の言葉が述べられました。
それに対して村崎さんは、
「すごい、自由な発想で素敵な作品ばかりですね。僕の方こそありがとう」
と言葉を返しました。
生徒さんたちは本当に楽しんでくれたようで、
「大人になったら自分の子どもに作らせたいと思った」
と話してくれました。

作る、表現する楽しさを全員で満喫(撮影:中山雄太)
午後:アカウミガメを守るボランティア活動の講話
午後は初音2階の大広間で、アカウミガメ保護ボランティアをしている宮崎野生動物研究会 新富南班の後藤博己さんの講話です。
新富町の元・役場職員である後藤さんは、以前、昼間の富田浜でアカウミガメが孵化する場面にたまたま遭遇。その様子に感動してアカウミガメの虜になり、宮崎野生動物研究会に入会し保護活動に参加し始めたそうです。
<活動内容の一部>
・アカウミガメの見守りや孵化率調査、浜の清掃等を行う
・富田浜は年間約120頭が上陸
・昨年から卵を孵化場に移動させるのをやめた
・キツネやタヌキによる食害から卵を守るため、産卵場を網で防護する
海洋プラスチックゴミが海の生物たちの生命を脅かしているとよく聞くけれど、日本人もいろんなゴミを出していて、決して対岸の火事ではないということ。また、卵を食べてしまうキツネやタヌキだって、生きるための当たり前の行動をしているだけで決して悪くないことなど、より広い視野でアカウミガメの問題を考えることができました。
「SNSでアカウミガメの情報を発信すると、掃除を手伝ってくれる人が増えました。でもやりすぎると人が集まりすぎてしまい、かえって環境を悪くすることもあります」
と、活動の難しさも話します。
「今の年齢だからこそできること」をやろう
毎日のようにボランティア活動を続けるのは大変ではないのでしょうか。
「アカウミガメを絶対に守らなきゃ!と必死に活動しているわけではありません。退職後はこの活動を生活の一部に組み込んで、メンバーそれぞれができることをできる範囲でやっているだけなんですよ」
自身のライフステージや毎日の生活に合わせてやるからこそ、ボランティア活動は継続できます。
「あなたたちは学校でこのようなことを学んだり、たまには休日に清掃ボランティアに参加したりする程度で十分ではないでしょうか。今の歳だからこそできることをやって、自分の“得意技”を身につけて欲しい。それが将来きっと役立ちますから」
と、後藤さんの視点で語ってくださいました。
1日通して感じたことをシェア
最後は振り返りの時間。円になり、お互いの顔を見ながらそれぞれが感想を述べました。
・流木アートが楽しかった。親にプレゼントしたい
・いろいろ吸収できたし、成長したと思う
・海は広いし、地味に怖い
・アカウミガメの胃袋から海洋ゴミ発見。絶対捨てちゃいけないと思った
・川から海へゴミが流れる。山もキレイにしなきゃ!
中山のはじめの言葉の通り、自由に感じたままを伝える生徒さんたち。
「この数時間で子どもたちの成長が感じられた」
「今日の海での学びを山でも生かしたい」
という言葉から、先生たちの充実感も感じることができました。
講師の村崎さんをはじめ、関わる大人たちや友達など、たくさんの人の手を借りて作品作りをした午前のワーク。アカウミガメにまつわる後藤さんの活動を聞き、自然や環境、動物の生命に思いを馳せながら、自分の生活を振り返った午後の講話。
山育ちの子どもたちが、海という異空間でさまざまなことを学んだ素敵な一日となりました。