地域にねむる魅力=“アートのたね”を育てたい。アートの力をまちづくりに活かしながら「ローカルキュレーション」に挑戦!:甲斐隆児さん

アートとは程遠いような地域の暮らしにも、実はアートが内包されている。甲斐さんは独自の視座・視点で地方の農業や暮らしを見つめながら、そんな思いを描き伝えようとしています。アートの視点から地方の魅力を捉え、編集し発信する。まずは宮崎県新富町でその実証実験ともいうべきチャレンジへ一歩踏み出しています。

■プロフィール
甲斐隆児
1981年、宮崎県日向市出身。幼少期から絵を描くことが好きで、大学では油絵を専攻。卒業後は福祉や教育、農業に関わる仕事に従事しつつ、2020年より九州大学大学院芸術工学府 緑地保全研究室に研究生として所属。里地・里山や緑地の保全活動等に関わりながら、地方や地域のアート性、内包アートの表現や発信を模索した。2021年4月より新富町地域おこし協力隊に着任し、こゆ財団でアートプロジェクト事業を担当する。

「アート=美術」を脱却したら、アートの概念が一変!

−ようこそ新富町へ! 甲斐さんが昨年自主製作された冊子『アートのたねと半農半芸』を見ると、色使いと形が特徴的ですね。

甲斐:そうですね。ぐるぐるしたものを「たね」と呼んでいて、自分の中のイメージを絵にするためのワークショップを繰り返すなかで生まれたモチーフです。自分の作品を見ていると、どこか宮崎の色味と似ている気がします。

−宮崎県日向市のご出身ですが、なぜ新富町へ?

甲斐:数年前、鹿児島でまちづくり系のトークイベントに参加したんです。講師の方は建築を通してまちづくりに携わる方だったのですが、私はそのとき「宮崎の中で今おもしろいまちは?」って質問したんです。そこで新富町こゆ財団の名前が出て、興味を持ちました。出身の日向市とも近いですし。

−まちづくりに興味を抱いたのは?

甲斐:農村に生まれ育った私は、地域に息づく農や伝統ある暮らしにとても興味があって。児童養護施設で子どもたちと農作業に取り組んだ時期もあり、改めて農業や自然を身近に感じて生きる素晴らしさを感じました。次第に消えつつある地域の魅力をなんとか守り継いでいくために、自分が持つアートの視点を介してその魅力を創造・発信していきたいと考え、協力隊の制度を活用してこゆ財団に来ました。
まちづくりはアートに通じる部分が大いにある、と私は思っています。

−まちづくりとアートに共通性があるとは意外です。

甲斐:地元の日向市で高校生まで過ごし、ずっと絵を描いてきた私は、「アート=美術」と捉えている節がありました。大学や社会に出ていろんな世界に触れ、ダンスや演劇等にも関わりはじめると、一気に自分の中のアートの枠が外れたんです。

−なるほど。

甲斐:私は1人で創作に取り組みますが、舞台や演劇では多くの人が関わり合いながら一つの世界を作り上げていきますよね。まちづくりにも、同じことを感じて。デザインする人、事業づくりをする人、事務的にサポートする人など、こゆ財団にもいろんな人たちがいますし。それ以来、いろんなものにアートを感じるようになりました。

▲アカウミガメが上陸する富田浜海岸で、地元の人たちと海岸清掃に向かう甲斐さん(写真/左)。地域に出ていろんなことを感じ、情報収集している最中です

転機をもたらした「ばあちゃんの赤飯のおにぎり」

−アートやアーティストの定義って、意外に難しいですね。

甲斐:そもそも私のアートの概念を革命的に変えたのは、私が初めて個展を開いた時に祖母がお重に詰めて差し入れてくれた、手作りの赤飯のおにぎりです。それを見た瞬間に「ばあちゃんはアーティストや」と言いました。

−ええ?! 意外な一言! それで、おばあちゃんは何と?

甲斐:何を言っちょるっちゃろか〜、と言わんばかりの顔で笑っていました。祖母が赤飯をつくる様子は小さい頃から見てきたので、もち米や小豆を育てるとこからおにぎりになるまでに込められた手間と時間、蒸し上げる小豆の香り、人や地域とのつながりまでも、赤飯のおにぎりを見るだけでその様子がよみがえりました。そんな地域の暮らし全部を味方に、孫を想って赤飯のおにぎりで気持ちを表現している祖母こそ、一番のアーティストなんじゃないかと思ったんです。アトリエで1人制作活動する自分じゃ敵わないなあ、と。

▲地域おこし協力隊として、町内のニラ農家さんのハウスでお手伝い。ニラの香りから何かを感じとっているようです

▲畑仕事の後、協力隊やこゆ財団メンバー、農家さんと食べたとうもろこしご飯

−それから地方や農を意識しはじめたのですね。

甲斐:母が赤飯を炊いても、祖母のものとは全く感じ方が違うんです。丁寧な手仕事、農と暮らしは“アートのたね”のような魅力を内包している。地域をアートという切り口で捉え直し情報発信することで、多くの人に魅力を伝えたい。人の暮らしと地域の風景をできる限り守っていきたいと思いはじめました。

▲ニラ農家さんの手伝いをした後、太陽のもとでニラたっぷりの卵焼きをほおばる。そんなひとときが甲斐さんの五感を刺激する

アートの視座で地方の魅力を再編集し、発信する

−地域おこし協力隊として、まずはこゆ財団でどんな仕事を?

甲斐:アートプロジェクト全般を担当します。昨年度から始まっている国の交付金事業の一つ、芸術家まちづくり事業の企画を立て、実施していくことが当面の私の業務です。慣れない部分もありますが、周りの方の協力をいただきながら挑戦していきます。

−新富町公式キャラクター“おとみちゃん”プロジェクトも始動しましたね。

甲斐:はい、4月24日にお披露目イベントが行われたばかりなので、これからもっと皆さんに知っていただきたいです。

▲4月のこゆ朝市で早速、アート系のワークショップを開催。今はとにかく、チャレンジあるのみ!

−協力隊活動をしながら、個人的にやりたいことは?

甲斐:地域の魅力を発信する“ローカルキュレーション”に取り組みたいです。ローカルキュレーションとは、地方の情報を収集して選択し、再編集して魅せること、でしょうか。そこにアート的な視座を用いて、地域の内外に魅力を感じてもらえるような仕掛けをしていきたいです。

−すでに構想があれば教えてください!

甲斐:新富町の同じ地域おこし協力隊メンバーには、俳人やデザイナー、ローカルクリエイターのカメラマンがいます。彼らとコラボしてローカルキュレーションの展覧会ができたら、と今からワクワクしています!

         
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