イベント

イベント

外は晴天、風もなく寒さも心地よいなかで迎えた12月19日日曜日の午前10時。新富芸術祭ののぼりが揺らめく日向新富駅で、初めての「大根ワークショップ」を開催しました。

駅の構内はモニターが設置された待合所兼コワーキングスペース。大人と子ども合わせて17人が集まりました。

忙しい中登壇してくださったお二人

発起人のこゆ財団・黒木さゆみが登場し、本日のゲスト紹介からスタート。

まずは中山真一さん(下の写真/右)。

新富町出身。11月18日で62歳。高鍋農業高校を卒業後、父の農業を継ぎ、米、黄金千貫、漬物用の大根等を作る。自然の力を借りながら、土づくりからこだわった農業を奥様と息子さん夫婦と一緒に営んでいる。本格芋焼酎「新富」の原料芋生産者。

そして、木村昭彦さん(上の写真/左)。
愛知県のたくあん屋の次男坊として生まれ、30歳を目前に質の高い干し大根を求めて新富町に移住。「米ぬか発酵製法」により今も伝統的なたくあんを作り続けている。漬物の製造販売に加えて発酵や漬物について研究を重ね、「漬物伝道師」を目指す。

「大根やぐら」をもっと知ろう

早速、漬物用の大根についてが語るイベントがスタート。モニターで大根やぐらの写真や動画を見ながら、説明や質問、クイズが繰り広げられました。

野菜ソムリエプロの資格を持つこゆ財団・黒木さゆみが司会を担当

<クイズ1問目>
●大根やぐらは高さが6メートルあります。では“長さ”は何メートル?
①20メートル ②50メートル ③100メートル
答えはなんと③番

へぇー! と会場にどよめきが起こります。長さも驚きですが、やぐらに干す生の大根はトラックの荷台数十台分だそうで、竹と紐だけで組まれたやぐらがそれほどの重量を支えているのです。

<クイズ2問目>
●たくあん用の大根とおでんの大根は同じ種類である。○か×か?
答えは…×です。
おでんや千切り大根には「青首大根」、たくあん用の干し大根は「日向理想大根」という品種だそうです。干して水分が抜けたら結べるくらい柔らかく、軽くなります。

<クイズ3問目>
●天日干し大根は宮崎だけでなく、全国各地で作られている。○か×か?
答えは×です。大根自体は全国で作られていますが、干し大根は晴れが多くて雨が少ない宮崎が適していて、生産量日本一。鹿児島も少し作っているが、ほとんど宮崎で生産されている、と木村さん。

途中、参加者から中山さんに質問が飛び出しました。

Q.大根やぐらを組み上げるのに、何人で何時間くらいかかりますか?
中山さん:家族で10日くらいでしょうか。でも、その前に孟宗竹を山から切り出す作業もあるので、実際にはもっとかかっていますね。

Q.後世に継承していきたいとの思いはありますか?
中山さん:そうですね。でも田野町(同じく大根やぐらで干し大根を生産する町)でも重労働なのでやる人が減ってきています。新富町も以前は十数件ありましたが、今年は4件だけ。一方で機械メーカーも需要減少でものを作れなくなってきているのが現状です。

作り手がそこまで少ないとは、驚きです。
「みなさん、おいしいたくあん漬けがなくなるかもしれませんよ! ぜひ消費して応援したいですね」
と黒木が言葉を添えます。

干し大根づくりは子育てのように

11月末〜1月末まで行われる干し大根づくり。漬物用に水分が抜けるまで約2週間、農家さんは乾き具合をチェックしながら天候に対応します。雨が降る時は雨除けにブルーシートを掛け、冷え込む晩には凍らないようにと、やぐらの下から夜通しボイラーで加温します。

実際の大根やぐらの写真を見ながら

「農家さんがこうやって我が子を世話するように管理してくれるから、私たちはおいしい漬物を漬けることができるんです」
と、木村さん。農家さんと業者さんの長年にわたる信頼関係がうかがえます。

そもそも、新富町が干し大根の産地になったのはなぜなのでしょう?

「私の父が町議会議員時代に、葉タバコの裏作に魅力的な作物はないかと探していた折に、干し大根を知りました。そこで愛知県からキムラ漬物さんを誘致した、という経緯があります」
と、町の風物詩となった大根やぐらの始まりも知ることができました。

米ぬかを使った乳酸発酵が特徴のキムラのお漬物

木村さんの会社・キムラ漬物工業さんの商品は100種類以上。中でも米ぬかを使った乳酸発酵によるたくあん漬けは伝統的な漬物の漬け方で、発酵の力により栄養豊富な漬物になります。乳酸発酵することで長期間雑菌が増えるのを防ぎ、噛むほどに旨味を感じます。

「大根は干すことでアミノ酸やグルタミン酸、ギャバが増えます。ギャバは摂取するとリラックス効果があり、血圧を下げる働きがあるので、漬物もむやみに食べ過ぎなければ塩分の取りすぎによる高血圧等にはならないと言われます」
と、たくあん漬けの栄養や体への作用についても学びました。

貴重な天日干し大根の文化を語り継ごう

このように、クイズと質問を織り交ぜながら、会場にいる全員で漬物用大根について情報を共有していきました。最後に、今日のテーマにぴったりの絵本『たくあん』を黒木が読み聞かせ、イベント終了。
「これで今日からみなさんは“大根マスター”です! 周りの人にも話して干し大根を一緒に広めていきましょうね」
拍手でトーク&クイズを締めたところで…カービング装飾が施された大根にろうそくが立てられ、登場。なんと今日は偶然にも木村先生の54歳の誕生日!! みんなでハッピーバースデーを歌ってお祝いしました。

最後は駅前のミニ大根やぐらで記念撮影

干し大根を使った漬物づくりを体験

会場を移し、新富町るぴーモール虹ヶ丘商店街へ。実際の干し大根を使って、木村先生おすすめの寒漬け(はりはり漬け)を作りました。

これが干し大根。一人1本ずつ使います

一人1本ずつ、手を切らないように気をつけながら切ります。輪切り、ななめ輪切り、拍子木切りなどお好みの形に切ってジップ袋に入れ、鷹の爪やきざみ昆布、するめいかを加えて、しょうゆ・みりん・砂糖・酢をベースにした漬け込み液を注ぎます。数時間〜半日もすれば食べられる、簡単でおいしいお漬物です。
「干し大根はカビやすいので、新鮮なものが手に入る地元ならではのお漬物ですよ」
と木村さん。

漬物づくり体験の様子

完成した寒漬け(はりはり漬け)

トーク&クイズから漬物づくり体験まで約2時間ほどのワークショップでしたが、宮崎市から親子4人で参加したご家族(写真/下)の小学1年生の子どもさんは
「漬物を切ったりするのが楽しかった」
と笑顔いっぱい。お母さんも
「これをきっかけにお料理のお手伝いもしてくれるといいですね」
と話してくれました。

自然や人の営みが生み出す農業=「地域のアート」を伝えようと開催した本イベント。新富芸術祭2021を象徴する取り組みとなりました。