企業×地域=無限の可能性を探る、というコンセプトのもと今年からスタートした「こゆチャレンジ大学(略してこゆチャレ)」。
第7回目はゲストにNPO法人じぶん未来クラブの佐野一郎氏を招聘。
子どもたちが思い込みや先入観からこころを解き放てるよう、海外のパフォーマーの卵たちと連携してアウトリーチプログラムを実施。最近では教育機関と連携して、子どもたちのキャリア教育にも力を注ぐNPO法人じぶん未来クラブ。
「世界一チャレンジしやすいまち」をビジョンに掲げ、企業連携や人財育成の企画・運営を通じて関係人口創出に取り組む、地域商社こゆ財団。
全く異なるアプローチ方法で個人の可能性を開拓し、挑戦者の育成に最前線で取り組む2者によるオンライントークセッションを実現。「まちづくりは人づくり」と言い切る地域商社こゆ財団執行理事との対談形式で、Well-Being時代の人財育成について考えました。
■開催:2021年10月18日(月) オンライン開催
■対談テーマ:「ポストコロナにおけるアントレプレナーシップとは?」
■オンライン動画はコチラから(You Tubeページに飛びます)
■ゲスト講師: 佐野一郎氏(NPO法人じぶん未来クラブ)
■対談相手:高橋邦男(一般財団法人こゆ地域づくり推進機構 執行理事)
■モデレーター:有賀沙樹(一般財団法人こゆ地域づくり推進機構 広報イノベーション専門官)
子どもたちの自己肯定感を育て
自らの力で未来を選択できる次世代教育
新型コロナ感染症の拡大により、その運営や存続自体を危ぶまれた団体は数多くあると言います。エンターテインメント業界は特に煽りを受けていますが、エンターテインメントと教育を掛け合わせた「ミュージックアウトリーチ」と呼ばれるプログラムを提供する、NPO法人じぶん未来クラブも例外ではありませんでした。
現在はアメリカ法人HEART GLOBALと連携し、自宅に居ながらにしてオンラインで全世界の人々と繋がるGlobal E-Workshopを実施。歌やダンスを通じて子どもたちが自己表現する機会を提供しています。
実は9月に宮崎からもこのGlobal E-Workshopに参加。初回は教育関係者、8/31~11/20にこゆ財団が主催していたこゆみらいの学校の受講生、そして教育チームが繋がりのある高等学校の先生や生徒の皆さんにお声がけをしました。筆者も実際に参加し、オンラインでもできること、「オンラインだからできないということはない」と、その可能性を感じたプログラムでした。
今日はそんな子どもたちの背中を押し続けるNPO法人じぶん未来クラブの佐野さんと、世界一チャレンジしやすいまちを掲げるこゆ財団執行理事高橋に「一歩踏み出せる人財育成の方法」について聞いていきました。
自ら一歩踏み出せる人を増やすには?
TryとChallenge
佐野さん「難しいこと聞くね(笑)チャレンジっていう言葉は実はアメリカやヨーロッパと日本の感覚って少し違うんですよ。日本だとチャレンジ=挑戦ですが、アメリカやヨーロッパではそれはトライ(Try)になるんですよ。困難とか問題に向き合うことをChallengeと言って、僕らが言うような一歩踏み出す、ちょっとやってみるということはTryって言うんですよね。ちょっと興味関心あることにTryはできるんですよね」
佐野さんは、子どもたちが日常の中で「ちょっとやってみたい」と思っても、「それは危ない」とか「やっても仕方ない」と大人に言われていくうちにそれが当たり前になってTryの機会を失っていると言います。
佐野さん「いつの間にか『自分は向いてないからできないんじゃないか』『自分はこういう人間だ』という決めつけや思い込み、先入観に捕らわれてTryを阻害してしまっているんじゃないかと思うから、それらを外すために海外キャスト(HEART GLOBALのメンバーをキャストと呼ぶ)の力も借りながら子どもたちが本来持つTryする力を取り戻す、生きている力に火をつけようという活動をしているんですよね」
日本で「チャレンジ」というと非常に重く捉えられがちです。社会課題解決などは誰が取り組んでも解決が難しいですが、自分がちょっとおかしいな、変だなと感じたことを大事にして考えていくことが実はチャレンジしていくことで最も大事なことだと思う、と話してくださいました。
高橋「お話を伺っていて、ありたい自分とか実現したい世界を描くってことが私たちのチャレンジの1つなのかなと思いました。そのプロセスにトライや無数のエラーが沢山ありますよね。個人的に『人間は社会的動物である』という言葉が好きで自分自身ってどこにあるのかな、というのをよく考えます。家族や会社の人間、それぞれの相手に対して自分という人間が存在していて、どれも自分ですし、目の前の仲間の存在があって初めて自分が認識できると感じています。だからこそ、チャレンジには仲間の存在が不可欠だと思っています」
高橋曰く、頭のどこかに自分がいるのではなく、誰かと接している時に相手との間に自分が存在していて、どれも自分であるという考え方が好きだと言います。この前日は、高橋が3か月間伴走していたビジネススクールの最終発表会がオンラインで修了したタイミングでした。スクール自体がオンラインだったので直接会えないなかでの発表でしたが、そこには心理的安全性があり、特別なコミュニティが誕生する瞬間を見ることができたと言います。佐野さんのお話を伺って改めて仲間の存在の大きさを認識したと話していました。
チャレンジを阻む
思い込みや先入観
オンラインとリアルっていうことがよく比較されるが、手段なので実はどうでもいいんですよね、という話でも佐野さんと高橋は意見が合致、「思い込みの先入観を自分の中で作っているだけ」という話で盛り上がりました。
佐野さん「気が付いたら一度も会ってないんだ、となりましたが、いま手掛けているワークショップも海外のメンバーとの打合せは全てオンラインで喧々諤々の議論を交わしながら作ってきました。中にはオンラインでは深い議論が出来ないという方もいますが、その思い込みがあったら何も始まっていないんですよね。我々大人がオンラインではここまでしかできない、という思い込みで決めつけてしまうと、子どもたちの本来の可能性を削いでしまうことになりかねないんですよね」
また、その先入観をどう取り除いていくか、という話では前述の高橋の考えに賛同し、『人間』はまさに人の間で関係性を構築していくと考えているという話しになりました。
佐野さん「コミュニケーションの取り方を学んでいくこと中で自分自身の思い込みや先入観が解かれていくし、そうやって自由になった自分が相手を先入観なしに見れるようになる。あの人はあれが得意・不得意というのも単なる自分の思い込みなのではないか、と。そうすることで共通の目的に向かって意見を交わしながら協働することができる。そういう人財を育成していくことが次の時代を作っていくことになるのではないか、と考えています」
高橋「Twitterで見かけて面白いと思ったんですけど、奈良時代の人たちって歌を詠むことで気持ちを交換していた訳じゃないですか。その人たちがコミュニケーション取れてなかったかというと、恐らく今の私たちよりも想像力豊かでもっともっと相手の気持ちに想いを馳せていたと思うんですよ」
佐野さんは、大人、特に親や教師などの役割が増えれば増えるほど苦しい立場に追い込まれると思うと前置きした上で、子どもが生まれた時はただそこに居るだけで幸せな気持ちになるのに、良かれと思って色々言う中で「あれもこれも(危険だから)やっちゃだめ」と言うようなり、そうすると本来褒められたい子どもは、親は自分のことが嫌いなのではないかと思って関係性が壊れていく―と、そのジレンマを目の当たりにしていることを吐露してくださいました。
佐野さん「大人たちがそういう自分であることを自覚して、いかに子どもの立場に立ち、(時にリスクを伴うけれども)生まれてきた元々のありのままでいいということを原点に置きながら、そのうえで子ども自身が自分で道を選び悩み、失敗から学ぶ環境を大事にしてあげることが大切だと強く感じています」
経験値のある大人だからこそ難しい
ありのままを受け入れるということ
こゆ財団では、慶応大学で幸福学を研究している前野先生の幸福の4因子を信条にしています。『やってみよう・ありのまま・なんとかなる・ありがとう』―この中でも一番難しいと感じているのは『ありのまま』だと高橋は言います。
高橋「色々経験してきたばかりにありのままでいることの恐れって大人は大きくて、それを乗り越えるのは仲間の力なんだと思うんです。子どもたちは純粋なのでありのままでいる姿を見て、大人が気づかされる場面ってあるのかなと思うんですが、そういう親が変容する場面って見たことあるんじゃないですか?」
佐野さん「いま、全国に4000人の保護者ボランティアさんがいるんですが、皆さんの動機って私たちのプログラムに参加した子どもたちが今まで見せたことのなかった笑顔を見せたり、その後チャレンジをする姿を目にしたことで『このプログラムを支えていきたい、もっと広めていきたい』と思って応援して下さっている方が多いんです。子どもたの姿を通して自分たちも学びたい、成長したい、そういう思考を持った方々に支えられているというのは誇れることだと思っています」
学校教員の方が参加して自身が予想していたアクティビティと異なる反応や動きをした子どもを目にして、自身が先入観に捕らわれていたことに気付き、自らが勤務する学校の授業として取り入れられるように校長先生を説得して実現させた例もあると言います。
また、海外キャストが日本に滞在している間は毎回ホストファミリーの方々の協力により滞在先を提供、コロナ前は1年間で2400家庭のホストファミリーが誕生していたと話す佐野さん。そこでは、海外キャストと触れ合ううちに、『お父さんは〇〇、おばあちゃんは〇〇』という家庭内での思い込みや先入観に気付かされることがあったという話を受け、高橋はこれを地域に変換しても同じですね、と深くうなずいていました。
高橋「新富町ってホストタウンなんですよね。外から来た起業家を起点に本当に少しずつですがバイアスに変化が出てきています。自治体が定めた街の境はありますけど町も人の集合体なので佐野さんのお話はそのまま地域にも当てはまると感じました」
主体的に選択するかどうかは自分で決めること
人は現実が見えた時にだけ、自ら動く
ここで、『先入観を外す』という言葉が何度か出ていますが、無理やりではなく心地よく変容を促すにはどう背中を押しているのか、筆者から高橋に質問してみました。
高橋「意識はするけど意図はしないですね。背中を押しても上手くいかないと思うんですよね。例えば川を渡る時に『この幅なら渡れそうだよね』『あれを使うと上手く飛べそうだよね』みたいに、ずっと横で言ってる感じ(笑)」
これは日頃のコミュニケーションの中で、まさに高橋が筆者に対する接し方そのものだと感じました。
佐野さん「いいですね。組織で戦略を決めて皆に『やってもらおう』という意識でいるとそういう発想って出てこないんですよね。人にはそれぞれ異なるバックグラウンドがありますよね、その中で1対1の人間として自分はこう思うんだけどあなたはどう思う? という会話の積み重ねの中から、1人1人が自分で判断して動くことを大切にしないと、やらされることほど嫌なものはないので。気付かせようなんておこがましいんですよね」
続けて、リクルートで働いていた時代に先輩から言われて大事にしている言葉があると話してくださいました。
佐野さん「現実を直視した時に人は自ら動き出す、という言葉を大事にしています。ただ、現実(の切り取り方)って多様なので『私から見えているあなたの現実はこれです』というのを相手に伝えた時に、相手が自ら思うことがあれば自発的に動き出しますよね。もちろん全てがそうとは言い切れませんが、『どんなあなたでも私は受けれ入れますよ』と心理的安全性を提示した上で、見えている現実を伝える、ということは大切にしています」
両者とも「働きかけない、あくまでも人は自分で選択する」ということを大切にしていることが伝わってきました。それぞれ対象は違えど根底に持ってる想いや抱いている難しさ、という点では共通することが多く、『こゆみらいの学校』という講座を運営している筆者も自身に置き換えて考えさせられることが多い貴重な時間でした。
まさにチャレンジ「フィールド=畑」のごとく、誰もがやってみたい、チャレンジしてみたいと思った時にトライしやすいよう、畑をふくよかな状態に耕して準備をしておきたいと話していた高橋。この町でチャレンジしてみたいと言う方がいましたら、絶賛人財募集中ですのでお気軽にまずはお問い合わせください。
こゆ財団では今後も様々な掛け合わせを楽しみながら、新しい可能性拡大へ取り組んで参りますので引き続きお楽しみください。
written by Saki Ariga