「起業×地域=無限の可能性を探る」というコンセプトのもと、2022年5月から8月にかけて実施した「宮崎ローカルビジネスアカデミー(以下LBA)」。
本講座スタートに先立ち、ゲスト講師としてきら星株式会社 代表取締役・伊藤綾さんを招聘し実施した、プレ講座の様子をレポートしていきます。
伊藤さんは、「誰もが自分の好きなまちで暮らせる社会の実現」をビジョンに掲げ新潟県南魚沼市湯沢町の転職・移住サポート事業を行なっています。ローカルでキャリアを歩みたい人を応援するため、自身の移住経験をもとに「欲しかった」情報の提供を、企業や自治体と連携して発信しています。
その地域で暮らすことを選択した人々の生活の真の豊かさを求めながら、地方暮らしを推進するためには? 仕事や暮らし、まち選びのサポートを事業として創り上げてきた伊藤さんから、地方で事業を作るイロハをお聞きしました。
▼ゲスト講師紹介
伊藤綾(いとうあや)/きら星株式会社 代表取締役
1985年生。新潟県柏崎市出身。イオンモール→現職。民間から地方の衰退に取り組めないかと移住促進を主なアプローチとし、2019年新潟県湯沢町にきら星株式会社を創業。「地方をワクワクでアップデートする」をビジョンに、職業紹介・スペース運営・起業支援等を行う起業家。
きら星⇒https://www.borderless-japan.com/social-business/kirahoshi/
note⇒https://note.com/moya_itoaya/
Twitter⇒https://twitter.com/KirahoshiYuzawa?s=20&t=3gH5VtIHmOLJebBfY0vIuw
- 【講座概要】
- 開催:2022年4月13日(水) ※オンライン実施
- 対談テーマ:「地方で事業を作るには」
- ゲスト講師: 伊藤綾氏(きら星株式会社 代表取締役)
- ファシリテーター:有賀沙樹(一般財団法人こゆ地域づくり推進機構 広報イノベーション専門官)
- アーカイブ動画はコチラから(You Tubeページに飛びます)
新潟県柏崎市の海側の街で生まれ育った伊藤綾さん。現在は、「誰もが自分の好きなまちで暮らせる社会の実現」をビジョンに掲げ、アクティブに行動されていますが、中学時代まではあまり活動的ではない性格だったそうです。
そんな伊藤さんの人生の転機は、寮のある高校を選択し、地元から離れて環境を変えたことにありました。高校生活で感じた「住む場所を変えれば、周りの人間関係も含めて、がらっと変えることができた」という一つの成功体験があったことも、今の事業に関係しているように思います。
伊藤さんは、新卒でキャリアをスタートさせた営業職の後に、縁のあったショッピングモール等の商業施設を建設するディベロッパーを経験。そこで、活気がなくなっていく地方の様子や、人が住まなくなった地域の荒廃を目の当たりにし、もっと小回りのきく形で、地方で地域の活性化に携わるようなビジネスを自分で立ち上げよう奮起。
もともとまちづくりが好きであることと、会社員生活を通じて得た知見を活かし、「移住促進を中心とした地域づくり」に貢献されています。
「場所が変わると人の人生が変わるということ」を自分自身の人生のモットーとしながら、それぞれの人の理想の暮らしを実現するサポート役として、さまざまな取り組みをしている伊藤綾さんが考える、地方ビジネスをしていく上での苦労や、行動し続ける為の原動力を深堀りします。
地方で事業を続ける3つのコツ
地方での事業をつくる上で、伊藤さんは3つ大事にしていることがあります。、“①誰向けのどんなビジネスか”、“②マーケットインで思考されているか”、“③行動、行動、行動”、まずは①と②についてお伺いしました。
伊藤さん「自分がやりたいことや、好きなこと、実現したいライフスタイルといった事の主張だけでは地方でのビジネスは成り立たない。①と②をバックボーンに、自分のやりたいことと折り合いをつけることが必要ですね」
有賀「まさに独りよがりにならないことが大事だと、私も移住してから実際に感じた場面がありました。よかれと思ってやっていることが、気が付くと独りよがりなものになりがち。市場のニーズと自分たちがやりたいことのバランスを取ることは難しいですが、伊藤さんはどのようにされているんでしょうか?」
伊藤さん「自分が好きなことを続けるためには、お客さんに喜んでもらわないと続けられない、その簡単なロジックです。私は起業支援をやる中で、あなたは誰のどんな課題を解決したくて、もしくは、誰にどういう風に喜んでもらいたくて商売をするんですか?それで、どうやってお金をもらうんですか?と、問わせていただいています。お金をもらえなければ、ビジネスは継続できませんよね?なぜ、バランスを取らないといけないのかは、なんのためにやるのか立ち返って考えると意外とシンプルです」
起業支援をする上で折り合いを付けるのは難しい部分ですが、継続し続ける為には、そのシンプルな心理に立ち返ってバランスを取ることが大切なんだと感じました。
——いかに早くサービスにできるか
こゆ財団では、きら星同様に地域おこし隊の地域活動の支援をしています。伊藤さんはどのように協力隊の事業計画を支援しているのでしょうか?。
伊藤さん「うちは起業型の地域おこし協力隊も支援しています。その人達は、自治体の職員でありながら、みんなフリーランスという立場でも仕事をしています。活動費をもらいながら、そこからいかに早くサービスにできるかというところを指導しています」
伊藤さんが伴走する協力隊の方々は、概ね6ヶ月で自分のサービスを作り事業をスタート。いかに早く行動し、適正なマーケットの価格で戦えるようになるかを協力隊任期期間中に実践し、ビジネスを確立していくといいます。このスピーディーな行動には、伊藤さんが大切にしている「②マーケットインで思考されているか」が大切な指針になっていると言います。
伊藤さん「地方はどうしてもマーケットが小さい。自分のやりたいことに対して、市場のニーズがそもそもあるかないかを見極めていくというところが大切です」
地方にいる分、大手企業と気軽に話せる状況ではなかったり、展示会への参加も一苦労であったり、物理的な弊害が多くあります。そんな中でも伊藤さんは、マーケットの大きさを見て事業の幅を広げていると言います。
伊藤さん「大きなマーケットを目指して頑張るという人は、首都にいるよりも百倍動く気概やらないといけないかなと思います。小さなマーケットの場合、ひとつ事業だけではビジネスが成り立たない、いろんな要因があると考えています。大事になってくることは、マルチポートフォリオ(現代の百姓)という形で複業パラレルワークなどをしながら、いろんな飯の食い方をして事業を作り出すことです」
伊藤さんが指摘するこの部分が、まさに前述の「③行動、行動、行動!!」に繋がっていきます。
地方におけるコミュニティマネジメントの在り方
地方でビジネスを立ち上げていく上で、行動を起こすためにも仲間やコミュニティの存在がものすごく大事であると感じます。コワーキングプレイスやコミュニティのマネジメントにも尽力する伊藤さんの考えを伺いました。
伊藤さん「経営者は孤独と言われることが多いんですよね。そういう風潮の中で近くに頑張ってる人がいたり、そういう姿を見てたりすると、すごく奮起されます。そういう意味では、すごくコミュニティは大切だと思っています。こゆ財団のように仲間がたくさんいるところは、本当にコミュニティとしてかなり強いと思います。何らかのビジネスの先輩がいて、すぐ聞けるような環境でチャレンジできるというのは本当にありがたい環境ですよね」
仲間がいると進みが早いと話す伊藤さんのコニュニティーマネジメントと、こゆ財団の環境には似たものがあると感じました。
やりたいことに責任をもったメンバーが集まっているこゆ財団。お互いが独立していることを認め合っているからこそ、迷ったときはお互いに解決し合える環境をつくることができます。起業家精神のような考え方を持った人が周りに増えることで、相乗効果が生まれるのではないかと、改めて感じました。
——ゼロからの立ち上げ、地方ならではの苦労
一方で、コネや人材紹介ビジネスのノウハウがなかった状況で事業を始めたという伊藤さん。同じ新潟県でも出身地である海側と事業を行なっている山側では、全く違う土地柄だと言います。そんな環境下で、事業を立ち上げたことの苦労や、行動し続けられる伊藤さんの原動力とは?
伊藤さん「事業戦略上、首都圏に近い地方の方が有利だったので、湯沢町で事業を立ち上げることを選びました。特に知り合いが居たわけでもないところからのスタートは、なかなか受け入れてもらえず、胡散臭いなどと煙たがられることもありました。さらに、人材紹介に対してお金を払う文化がない地域でした」
本当にないものをゼロイチで作らないといけない。新しいことをやると、みんなに理解されない、全く知らない土地で始めるビジネスには、新しいことを理解してもらうための苦労がたくさんあったと言います。
ただ、そんな環境下で伊藤さんが事業を発展できたのは、何度でもトライし続ける起業家精神を大事にしていたからだと言います。
伊藤さん「一度壁にぶつかったから諦めるなんてビジネスなら、しない方がいいです。ぶつかってもその場所にニーズやマーケットがあるなら、何度でもトライして行動し続けることが事業を発展させるためには重要だと考えています。その精神と行動を維持できる原動力は、社会に対する怒りです。このままではまずいという危機感からくる、怒りです」
自分のあり方を突き詰めて考え、できる範囲の中で良い社会を作っていきたい。そういう人間でありたいという想いが行動の原動力にあると教えてくださいました。
伊藤さん「地方ビジネスという場合に限らず、どこで何をするにしても自分がどういう風に生きていたいのか、自分のあり方みたいなのが根っこにあると、会社員として働いていても起業しても、自分の行動指針が見えてくると思います」
野次を飛ばすだけの人間になりたくなかったと語る伊藤さんの原動力には、社会に対する熱い想いを感じます。
日本全体で盛り上げていく移住促進
大前提として人口が減少してしまうことについては致し方ないと話しながらも、伊藤さんが大事にしたい考え方とは?
伊藤さん「それぞれの地域で、公共のインフラや、適正な人口構成比があると考えています。適切な配分比で、自治体がそのまま継続できるような形で地域を維持していくというのが私の考える理想です」と語ります。
相対的に人口比率としてバランスを良くし、社会作りをしていかないと少ない人口の中では、その町自体を維持することはできないところがあると言います。
地方移住合戦になってしまっては、持続可能な社会づくりは難しい。移住促進をするだけではなく、もっと広いフィールドで人や時間をシェアできるようなことが一番持続可能なのかもしれません。
伊藤さん「地方と都会との副業・兼業は、人や時間のシェアにも繋がりますし、その経済的な波及効果などもあるかな、と思ってます」
私は仕事柄出張が多いため、行く先々での出会いがありますが、直接話を聞くと、このひとつの商品に込められた想いが直に感じられます。帰りたい故郷のような場所がどんどん増えていく感じは、まちづくりの仕事に携わって初めて見えてきた景色でした。もっと色んな地域のまちづくりや地域商社の方、人の繋がりの情報交換について、連携できたらいいなというのは理想として思い描いています。
——地方事業をつくり出したい人へ、伝えたいこと
伊藤さん「言うは易く行うは難しと言いますか、頭で考えてプランニングするのは簡単なんですが、それを行動に移すことは非常に難しいです。でも、そこに仲間がいれば実現できたりします。自分が活躍できるフィールドを耕してくれていて、受け入れてくれる場があると、非常にトライしやすい。そういう意味では新富はかなりあったまってると思います。新富がちょっと熱すぎだなということでしたら、湯沢にきて貰えればなと思います!(笑)」
新富や新潟に限らず、日本全国色々な特性を持った地域、そして色々な変人(?)が集う面白い地域がたくさんあります。ぜひ、ご自身が生きやすい、個性を存分に発揮できる場所を探してみてはいかがでしょうか?
こゆ財団では、「世界一チャレンジしやすいまち」をミッションに掲げ、アントレプレナーシップの育成に取り組んでいます。公式HPやSNSを通じて講座情報やイベント告知をしていますので、興味のある方はぜひフォローをお願い致します。
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また、地域おこし協力隊の採用にも積極的に取り組んでいます。こちらも興味のある方はぜひご連絡ください。